再-Re-始-start-動

「あっ、こんばんは。お久しぶり、ですね」
　満天の星空の下。夜空に溶け込むような紺碧の髪の少年は、白い大きな翼の天使と出会った。暗がりの中、煌々と光る柘榴色の瞳。天使は自身を「ひとに作られた救世主」だと言った。
「あなたの物語も再び動き出したのですね。今、どんなお気持ちですか？」
「あの頃は果たせなかった約束に、救えなかった命に、届かなかった願いに、今なら手が届く。今度こそ……守ってみせると思いますか」
　そう言って、天使は少し寂しそうに笑った。
「ぼくはそう思います。でも、きっと結末は変わりません。これは繰り返しであって、やり直しではないから。失ったものは戻らず、傷は癒されることなく……。あの痛みを繰り返すぐらいなら、もうそっとしておいてほしい。そう……思うこともあります。でも」
　天使は空を見上げる。両手を広げたかと思うと、大切なものを抱えるかのように胸に抱く。先ほどのそれとは打って変わり、穏やかな笑顔を浮かべ、愛おしげに続ける。
「……それでも、また彼らと一緒に過ごすことができる。今はそれが、とても嬉しいんです。あなたは、どう思いますか？」
　天使が少年へと向き直る。柘榴色の大きな瞳と目があった。天使は静かに微笑み、一言告げてから白い大きな翼をはためかせて飛び上がった。大きさに見合う羽風に、少年は思わず顔を伏せる。
　再び顔をあげた時、天使の姿は星空のかなたに消えていた。はらりはらりと白い羽根が眼前に舞い落ちる。思わず手に取ったそれは、柔らかな見た目の印象とは異なり、無機質な素材でできていた。あどけなさの残る天使の微笑み、去り際に呟いた言葉が脳裏に浮かぶ。

「あなたに光を、あなたの大切な仲間に祈りを」
「あなたの物語に祝福を――――」

　遠くで仲間たちが呼ぶ声がする。無垢な少年は手にした作りものの羽根をポケットにしまうと、仲間たちの元へと駆けていった。